教育について
多動性注意欠陥障害(ADHD)の子どもの学習環境を整える方法
多動性注意欠陥障害(ADHD)と診断された子どもや、親から見てその傾向が強いように感じる子ども達は、一般の子ども達とは違った「感じ方」を持っています。
知的障害や学習障害を併発していなくても、多動性注意欠陥障害(ADHD)の症状が強く出ている間は、学習に専念することが難しい状態です。
多動性注意欠陥障害を持っている子ども、その傾向が強いと感じる子どもには、学習環境を整えてあげることで、勉強がしやすくなることもあります。
ADHDを持つ子どもの学習環境を整えるには、どうすればよいのでしょうか。
目次
多動性注意欠陥障害(ADHD)の特性をよく知る
多動性注意欠陥障害(ADHD)を持っている子どもの学習をサポートしてあげるためには、まず子どもの特性をよく知ることが必要です。
ADHDといっても人によって特性はさまざまです。また知的障害や学習障害を併発しているケースもあります。
知的障害や学習障害を併発しているかどうかは、幼稚園の年中さんから年長さん、小学校入学以降にならなければわからない場合も少なくありません。
勉強についていけない、勉強が苦手な子でも、その原因が知的な障害や学習障害によるものか、多動性注意欠陥障害による弊害なのか、はっきりと分からないことがあるからです。
そこで多動性注意欠陥障害の特性をしっかり理解しておきましょう。
3つの特性がある発達障害の一種
多動性注意欠陥障害、ADHDは、3つの特性がある発達障害の一種です。
3つの特性はすべて出る場合もありますし、出ない特性があるケースも見られます。
子どもの様子を日々観察し、どのような場面でどう反応するかなどをチェックしておきましょう。
多動性
多動性は、走り回ったり、落ち着きなく体を動かしたりするなど、自分の行動をコントロールできず、動き回ってしまう特性です。
子どもに多く、思春期を迎えるとともに落ち着いてきて、衝動性に変わってくることも少なくありません。
衝動性
衝動性は、衝動的な感情に任せて飛び出してしまったり、周囲の空気を読まない言葉を発してしまったりする特性です。
子どものころは多動性と重なって、衝動的に叫びながら走り回るといった行動として現れることがあります。
成長するにしたがって多動性が抑えられてくると、感情的な衝動性が目立ってくる人も少なくありません。
多動性・衝動性が強い子の困りごと
多動性・衝動性が強く出ているタイプの子どもには、次のような困りごとが起きやすくなります。
・落ち着いてじっとしていられない
・椅子に座っていられず、すぐに立ってどこかへ行ってしまう
・物事の優先順位をつけることが苦手
・衝動的に動く
・周囲の空気や今やるべきことを理解しない発言を、突然する
注意欠陥・集中力のなさ
多動性注意欠陥障害(ADHD)の、もうひとつの大きな特性のひとつが、注意力の欠如や集中力のなさです。
集中力が続かなかったり、注意力が足りなかったりといった特徴として現れ、授業中のよそ見や忘れ物、片付けができないといった困りごとが多くなります。
集中力は、特に好きではないことに向かっているときは発揮されることがとても難しい反面、とても好きなことに対しては異様なまでに強い集中をみせることもあります。
注意欠陥・集中力のなさが強い子の困りごと
・好きではない授業や作業に対して集中できない
・やり始めても気が散りやすい
・好きなことには集中しすぎて、気分の切り替えができなくなる
・忘れ物や失くし物が多い
・時間を見ながら行動することができず、遅刻が多い
・約束を守ることが苦手
・片付けることや整理整頓が、物理的にも心理的にも苦手
・ケアレスミスを犯しやすい
複合
多動性や衝動性、注意欠陥や集中力のなさが同時に現れることもあります。特に子どものころは、はっきりとした線引きが難しいことが多いようです。
今日からでもできる!学習環境を整えるステップ
多動性注意欠陥障害(ADHD)の特性を理解したら、我が子はどのタイプに当てはまるか、どんな特性が現れやすいかをチェックしてみましょう。
その上で、我が子に合った学習環境を整えてあげます。
気が散るものが目に入らない場所を作る
気が散りやすく、集中することが苦手な子どもの場合は、子どもが興味を持ってしまうものが目に入らない場所で勉強ができるようにしてあげましょう。
例えば、窓が見える場所は、一般的には気持ちの良い、勉強がはかどる場所です。
しかしADHDの子どもにとっては、窓の外を通る人や自動車、そこから聞こえてくるさまざまな音が気になり、注意力が散漫になりがちです。
そこで、部屋の中でも窓が見えない場所、壁に面した場所などがベストです。
おもちゃやテレビ、DVDや絵本など、子どもが好きなものが散らかっている部屋や、整頓されていてもすぐ目に入ってしまう場所は、適切ではありません。
どうしても気が散るものが目に入らない場所を確保できない場合は、段ボールなどで簡単なパーテーションを作り、視界をさえぎる方法もあります。
特別支援学校や放課後等デイサービスなどでも行っている、簡単でポピュラーな方法のひとつです。
目で見てすぐに理解できるスケジュール・手順書を作る
発達障害全般、そして人間全般の特性として、見る情報の方が、聴く情報よりも理解しやすいと言われています。
街中にピクトグラムが表示されているのも、言語を介さなくても重要な場所がすぐに分かるからです。
特に発達障害をもつ人々は、耳からの情報処理が難しいことが多いため、目で見てすぐに分かる情報で指示を出してあげると理解しやすくなります。
また「今日は何を、どこまで、いつまでやればいいのか」をはっきりさせていないと、不安で集中しにくくなってしまいます。
そこで、毎日のルーティンをはじめ、勉強の内容や量・時間を、絵カードで示したり、ホワイトボードにスケジュール表を書いて示したりすることで、より分かりやすくなります。
座りやすい椅子・分かりやすい自分の定位置をつくる
椅子がガタガタしたり、いくつも椅子があったりするような環境だと、子どもはやはり落ち着いて勉強できません。
座りやすくガタガタ音を立てない、斜めに寄りかかって遊べないような椅子を用意し、定位置を作ります。
定位置をきちんと決めることで、「ここは勉強するところ」と意識できるようになってきます。
コミュニケーションの方法で理解度がぐんと変わってくる
多動性注意欠陥障害(ADHD)をはじめ、発達障害を持つ子ども達は、コミュニケーションがあまり得意ではありません。
そこで、親や周囲の人々が、ADHDや発達障害を持つ子ども達が理解しやすいコミュニケーション方法を身につけることで、子どもの理解度もぐんと変化します。
視覚支援と短い時間設定で毎日のルーティンをこなす
まず、伝え方を変えてみましょう。
これまで、「お家に帰ったら手洗いうがいをして、カバンを片付けたらおやつを食べて、それが終わったら勉強よ」というような指示を出していたママパパもいるのではないでしょうか。
確かに、ルーティンは毎日口酸っぱく言わなくても、身につけば流れ作業でできるようになることが多いものです。
しかし、優先順位や物事の順序を整理しにくいADHDの子どもにとって、ルーティンを帰宅後すぐにこなすことはかなり難しいミッションです。
こうしたルーティンは【視覚支援】の力を借り、絵カードやスケジュール表を見せて、順序良くこなせるようにしてあげます。
さらに宿題などは、1つずつ指示を出すようにします。
今日の宿題を全部チェックしたら、100均などで売っている組み立て式の棚にひとつずつ入れます。
上から1つずつやっていき、1つやり終えたら時間を決めて息抜きを入れてみましょう。
短いスパンでなら、集中や注意力も途切れにくくなります。
ご褒美タイムでヤル気を出させる
短い休み時間は、おやつやちょっとしたドリンクなどで気晴らしをさせます。
トイレに行ったり、5分ほどボール遊びなどで身体を動かしたりすることも、効果的です。
そして、宿題がすべて完了し、明日の用意をしっかり済ませたら、「ゲームがやりたい」「テレビが見たい」などのご褒美タイムにします。
子どもの最も強い欲求を最後に持ってくることで、大きな目標として頑張れる場合もあります。
子どもによっては、宿題の合間に1時間ほど強い欲求を満たし、その後に残りの宿題をさせた方が、効率的な場合もあります。
我が子の気分の切り替え方法や、性格などをよく見て、もっともヤル気が出る順番と時間配分を探しましょう。
やってほしいことを「1つずつ」「時間を決めて」具体的に指示する
お手伝いやルーティーンなど、やってほしいことは「1つずつ」「時間や回数を決めて」具体的に指示します。
「お手伝いして」「やることやっちゃいなさい」といった抽象的な言い回しや、マルチタスクになる言い方は、理解しにくくなります。
「テーブルにお箸を並べる」「食べ終わったらお皿をキッチンに運ぶ」など、絵カードなども利用しながら、1つずつ具体的な指示を出してあげましょう。
抽象的な言い回しや冗談はなるべく避ける
「ゆっくり歩きなさい」「さっさと食べなさい」といった抽象的な言い回しや、「寝ないとオバケが出るかもよ~」といった冗談は、なるべく避けましょう。
抽象的な言い回しは理解しにくく、どれくらいの速度が「ゆっくり」や「さっさと」なのか、判別が難しいですよね。
「ママと並んで歩こうね」「時計が7になるまでに食べちゃおう」など、分かりやすい目安を提示してあげましょう。
また「オバケが出る」「オニが来る」など、大人には冗談でも、想像力が一般の人々とは異なるADHDの子ども達には通用しないことがあります。
冗談でも、おどかすような言動は控えておきたいですね。
誉め言葉はストレートに!
誉めるときは、子どもが見せにきたり、できたりしたときなどすぐに、ストレートに誉めてあげます。
「頑張ったね!」「きれいな字でカッコいいね!」「すごい!早くなった」など、手放しで誉めてあげましょう。
「やればできるのに、ちゃんとやらないんだから」
「頑張ればできるっていつも言ってるでしょ」
というような、誉められているのか叱られているのか分からない言い方は、子どもを混乱させます。
叱る時は「ダメ」ではなく「やるべきこと」を端的に指示
叱るときは「そんなことやっちゃダメ」というような禁止の言葉ではなく、「そういうときは、こうしてね」とやるべきこと、正確な行動を端的に指示してあげましょう。
本当に命が危険にさらされるような時をのぞき、「~しちゃダメ」という禁止の言葉は、「結局どうすれば叱られないの?」と子どもを不安にさせてしまい、導くことができなくなってしまいます。
できない、苦手なことを絶対にからかわない
子どもも成長してくると、自分が他の友だちとはちょっと違うらしいということに気付き始めます。
その「違い」は特性ですが、子どもにとっては「欠点・苦手」です。
できないこと、苦手なことが多い自分を恥じ、自己肯定感を失いそうになることもあります。
また同級生にからかわれたり、笑われたりすることや、先生から注意されて辛い思いをすることも増えてくるでしょう。
そんな時に、親まで子どものできないこと、苦手なことをからかったり、馬鹿にしたりすると、子どもは心底傷ついてしまいます。
もしできないこと、苦手なことがあっても、絶対にからかって自尊心を傷つけるようなことをしてはいけません。
学力の底上げをしたい場合の注意ポイント
多動性注意欠陥障害(ADHD)の子どもには、知的障害がないケースも少なくありません。
しかし、多動や衝動性、注意力の散漫などが原因で、学校の勉強についていけない場合もあります。
学習塾などで学力を底上げしたいと考えるママパパは少なくないでしょう。
どうしても学習の底上げをしてあげたい場合は、どうすればよいのでしょうか。
着席するには集中できる環境が大切
ADHDの子どもは、多くの生徒と一緒に授業を受けるタイプの塾はあまり向いていません。
学校と同じように集中できず、席をふらふらと立ったり、キョロキョロしたりする可能性が非常に高くなります。
そのため、地域で有名な学習塾や、人気のある学習塾ということで塾を選ぶのではなく、我が子が集中できる環境の塾を選ぶことがポイントです。
ADHDに理解のある先生がいる個別指導教室を選ぶ
まずは、ADHDのことを知っていて、理解のある先生がいる教室を探してみましょう。
ADHDのことをまったく知らない先生に、いきなり多動のある子どもを預けても、どのように対処すればよいのか分からず混乱してしまいます。
ADHDのことを知っていて理解がある先生がなかなか見つからない場合は、実際に子どもと一緒に見学に行き、特性を説明して受け入れが可能かどうか訪ねてみましょう。
知的障害のないADHDや学習障害児の学びをサポートしてくれる放課後等デイサービス
ADHDの子どもは、大勢に向かって話していることを「自分に向けた言葉」として、注意深く聞くことが苦手な場合があります。
そこで、発達障害をもつ子どもたちの学習をサポートしてくれる、放課後等デイサービスを利用して、指導員に支援をお願いしてみましょう。
放課後等デイサービスなどでは、以下のような発達障害児向けタブレット学習を採用して、学習面のサポートをしているところも少なくありません。
▶︎すらら
▶︎天神
▶︎チャレンジタッチ
多動性注意欠陥障害(ADHD)の子どもは環境を整えることで暮らしやすく!
ADHDを持つ子ども達は、学校や塾でも「落ち着きがない」「すぐに立ち歩く」など、注意されることがたくさんあります。
子どもはそのたびに傷つきますし、親もつらい気持ちになってしまいます。
しかし子どもの集中力を高める場所づくりや、理解を深めるコミュニケーション方法をこちらが覚えるだけで、子どもはかなり暮らしやすくなります。
また子どもがどうやって理解するのかを親側が知ることで、子どもの学習にも変化が出てくる可能性があります。
勉強をはじめ、子どもの「生きやすさ」をサポートしてあげるためにも、親は子どもの特性をしっかり理解してあげたいですね。
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- 2020.2.16